コラム

2014 年 版

温泉宿の楽しみ方

久しぶりに泊まりがけの温泉!治療の合間のリフレッシュ…頑張った自分へのご褒美に…、気心の知れた友人や家族、がん友(患者仲間)と一緒に…、患者さんは、様々な思いを胸に温泉を訪れます。
小さな心遣いが一生の旅の思い出のはじまりです。

著者:桜井なおみ
イラスト:石井陽子

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手ぶらって楽ちん!

手ぶらって楽ちん!

乳がんの患者さんの中には、治療の後、身体、特に胸などが浮腫みやすくなっている方がいます。苦手なのは重たい荷物。
見た目では身体の状況はわかりません。我慢して重たい荷物を持っている方もいます。カートがついた「ゴロゴロ」を利用する方もいます。が、本音はちょっとやせ我慢。ちょっとした段差、ふかふかの高級絨毯が敷きつめられた廊下やスロープなどでは「大丈夫」と思っていた鞄の重さが身体にズシンと響きます。
「お荷物をお持ちしましょうね」の一言は、本当に有難い!「大丈夫です!」と断られる方が大部分でしょうが、「お疲れになっていらっしゃるでしょうから」、「段差などがありますから」など、もうひと押ししてくださると気持ちも楽に。甘えたくなります!
 

まずは大の字に!

まずは大の字に!

お部屋の案内をしてもらい、浴衣の場所や外の景色、トイレの位置などを確認!ようやく自分の時間になりました。皆さんは、お部屋で一番最初に何をしますか?
私は大の字になって思いっきり身体をのばすところからスタートします。移動で縮こまった足や手を「うーーーん!」と思い切りのばす。自分が生きていることを再認識する瞬間です。もちろん、浮腫もちの身体にはストレッチは必須!床に転がる姿を見ても、そっとしておいてくださいね。

おおお、空気清浄機!

おおお、空気清浄機!

大の字になった後は、お茶でも飲もうかとむっくり起き上がり、ふとテーブルをみると…テーブルの上に大きな灰皿が置いてあることがあります。煙草が苦手な患者さんもいらっしゃいます。もし、ピンクリボンプランなどで宿泊しているならば、このあたりの小さな配慮があれば更に嬉しいな~。そんなとき、救世主は空気清浄機!最近はアレルギーなどをお持ちのお客様も多いせいか、お部屋の中に置いてあることが多いので、これは本当に助かりますね。

お土産コーナーで思い出の品選び

お土産コーナーで思い出の品選び

旅の楽しみは、ショッピングぅ~。仲間や家族のことをあれこれ考えながらお土産を選ぶのは至福の時です。病気をしてからの私は、地元の銘品があれば、多少高くても思い出づくりのために奮発して家族のために買い物をするようになりました。先日は、かなり高い漆塗りのお猪口を名入れサービス付きで購入しました。
ホテルの中や外、地元の人しか知らない「このとき、この場所でしか楽しめない」ちょっとしたお薦め情報があれば是非教えて欲しいです。

ちょっぴり恥ずかしいエステコーナー

ちょっぴり恥ずかしいエステコーナー

それではお風呂へ…。浴衣をもってお風呂場に向かいます。最近では、ちょっとしたウェルカムボードが浴衣の横にあることも…。ピンクリボンプランを選ばれた方や、毎年10月のピンクリボン月間などでは、カードにそっとピンクリボンのマークが入っているのも嬉しいですね。
最近はエステコーナーや垢すりのサービスもよく見かけます。時間があるので…と寄ったとき、周囲から丸見えだったりすると、乳がん患者にはハードルが高くなります。「傷口は見せたくないし、見られたくもない」のが患者さんの本音。エステティシャンの接客態度など小さな心遣いとあわせて、安心してさらけ出せる空間がほしいですね。

一期一会、ともに時間を分かち合い

患者さんの中には、この旅行が家族と最後になるかもしれない人もいらっしゃいます。そうでなくても、死と向き合うような大きな経験は、「次はないかもしれない…」と思わせる気持ちになります。様々な思いを込めて、宿泊されるでしょう。
一 期一会。訪れた方が、たくさんの思い出がつくれるよう、自分や家族との時間、そして女将さんとの会話。小さな幸せをたくさん感じることができる。ちょっと 我がままが言える時間がもてると嬉しいな。大げさな仕掛けは要りません。チャンスはたくさんあると思います。ピンクリボンのお宿ネットワークが始まって1 周年。よちよち歩きのこのネットワークが、もっともっとたくさんの思いを包み込む場になることを願っています。

著者プロフィール

桜井 なおみ

NPO法人HOPEプロジェクト理事長
一般遮断法人CSRプロジェクト代表理事
キャンサーソリューションズ(株)代表取締役社長

2004年夏、30代でがんの診断を受ける。その後、自らのがん経験や社会経験から小児がん経験者や働き盛りのがん経験者支援の必要性を感じ、2005年から、がん経験者・家族支援活動を開始。
07年には、東京大学医療政策人材養成講座に参加。筆頭研究者として「がん患者の就労・雇用支援に関する提言」を発表。以来、一貫して社会と医療の間を結ぶ様々な問題に取り組む。
サイバーシップの啓発・普及を目指して奔走中。

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※本コラムコーナーでは「ピンクリボンのお宿」冊子に過去掲載したコラムを再編集し、ご紹介しています。
※無断転載禁止

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