2013 年 版
治療が一段落したとき、落ち込んでいた私を夫が温泉に誘いました。乳がん友達から入り方を聞くと「気にしないで大丈夫。自分が思っているほど周りは見ていないから!」と言われましたが、やはり心配。でも、勇気をふりしぼって「温泉デビュー」を果たした今では私なりの入浴方法を見つけ、気を配りつつも楽しんでいます。ポイントは4つ。
1. 着替える場所の確保
まずはお風呂に入る前、脱衣所の場所の確保が重要。他の利用客がいない場所を取りたくなりますが、そうすると意外にお風呂上がりが同時になったりして苦労します。既に利用されている人の上下、どちらかのカゴをおさえます。
ブラジャーを外すのが一番最後。タオルをアゴでおさえながら着替えて完了です。
2. 着替える場所の確保
タオルで前を隠しながら入り、洗い場を確保します。
私は右側に傷口があるので、右側に人が座らない場所、もしくは人の死角になる場所を選びます。
お風呂との距離が近ければ、術側の脚を前に出し、胸を隠します。髪の毛を洗う時が一番の難関ですが、ここは人がいない隙間をみてババッと流します
3. 入浴はタオルをうまく使う
湯船に入るとき、ギリギリまでタオルで前を隠しながら身体を沈めます。
その後、タオルは頭の上や湯船のヘリに置きます。お湯より下にある身体はゆらゆらして見えないので隠しません。
そして、出るときはタオルを手に、前を隠して一気に立ち上がります。
4. 風呂上がり
意外に困るのが風呂上がりの身体ふき。
身体をふくタオルが足りないのです。そこで、私はいったん洗い場に戻り、身体を拭いてから脱衣所へ戻るようにしています。
5. その他(あかすりなど)
サウナは前をタオルで隠せますし、岩盤浴は専用の洋服を着用することが多いので大丈夫。ところが、意外に危険な場所がエステ、あかすり、泥パックなどのサービスゾーン。このときはお試しコースで身体の裏側半分だけ洗ってもらう方法です。安いですし、傷口を見られる心配もありません。
最近は入浴着が置いてある温泉もありますが、他の方が使っていないと逆に目立つ可能性もあるので注意が必要。使っている人が多ければ、便乗しましょう。
お風呂で困っているのは全摘の患者さんだけではありません。温存でも悩んでいる患者さんもたくさんいます。また、腹部などに大きな傷を抱えた患者さんもた くさんいます。介護が必要な方もいるでしょう。気兼ねすることなく、もっとゆったり湯船で心を休めたいものです。治療中の方は食事も気になります。味が分 からなかったり、刺激が強くて食べられないこともあります。食事なども複数の中から選べるようになると良いなと思います。お宿ネットワークが広がり、誰も が気兼ねなく温泉を楽しめるようになることを心から願っています!
(まさか私が?30代で乳がんの診断)
私が乳がんの診断を受け、右側の乳房を全摘出して8年が経ちました。傷口は癒えてきても、心の傷や乳房喪失というコンプレックスは未だに残っています。当時37歳だった私は、乳房を失うことよりも生命が一番。「悪いものを早く取って欲しい!」そんな気持ちでいっぱいでした。手術は無事に終わり、はじめて見た手術の跡。看護師さんに「どう思った?」と聞かれ、「なんにも無い、砂漠みたい」と答えたときのことは今でも忘れられません。
(失って知った本当の胸の痛み お風呂はコンプレックス!)
来あるべきものが無い光景がこんなにも摩訶不思議、異様な世界になるとは想像もできませんでした。
それまでの私は、身体を動かすことが大好き。フィットネスクラブでマシーンを相手に汗をかき、身体を動かしたあとはジャグジーに入って気分転換をすることが日常でした。でも、手術の後、一番先に諦めたのがこのフィットネスクラブでした。理由はお風呂。浴場内へのタオルの持ち込みが禁止されていたため、傷口を隠すことが全くできなかったのです。その結果、別のフィットネスクラブへ転属をしました。悪いことをしたわけでもないのに、なぜ、こんなにこそこそしなくてはならないのだろう?悔しかったです。
※本コラムコーナーでは「ピンクリボンのお宿」冊子に過去掲載したコラムを再編集し、ご紹介しています。
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